QAテストの品質を改善する3つの観点(実環境・顧客体験・ローカライズ)を考える
ソフトウェアやアプリの開発において高品質なテストが不可欠なのは、もはや言うまでもありません。しかし、近年は、
- 単純にデバイスの数が増えるだけではなくVRゴーグルやARグラスといった全く新しい形のデバイスが登場
- 購買体験においてECサイトとリアル店舗のシームレス化が加速
- 機械翻訳の高精度化等によるSaaSの気軽なグローバル進出
等、システム要件の急激な変化を受け、従来のテスト手段の延長線上では語れないことも増えてきました。今回、高度化するテストフェーズにおいて、テスト品質を上げるための論点を整理したいと思います。
テスト品質を上げる観点1「実環境でのテストの重要性」
ラボテストの限界点とは?
多くの企業には、製品のリリース前にテストを行うための、品質保証(QA)チームや、QAのラボ環境があります。しかし、ラボテストで良い結果を確認してリリースしたのにもかかわらず、実際にユーザーが利用し始めると致命的なバグやユーザビリティの悪さが発覚してしまうことがあります。
原因の1つとして、「ラボ環境では実際に製品を利用するユーザーにテストしてもらっていない」ことが考えられます。ラボ環境だけでは、実環境で発生するバグや開発者が予想しないユーザーの使い方のテストまでは網羅できないのです。実際のユースケースを考慮しないと、製品やサービスの致命的な欠陥に繋がる恐れがあり、非常に重要な論点です。
解決手段としては以下の2つが考えられます。
解決手段1:テストを実施するユーザーを確保する
ラボ内に限られたユーザーを入れてテストします。または、限られたユーザーとの間でベータテストプログラムを実施します。それぞれ、実際の利用を想定した実環境を提供し、テストを実行することで、顧客が製品やサービスを利用する状況を可能な限り再現します。
ただし、30代女性をターゲットとするサービスを50代男性にテストしてもらっても、本質的な意味での実環境を再現できているわけではないことは、皆様もご理解いただけるはずです。
とはいえ、実際に製品を利用するユーザーをテスターとして一定数集めること自体、相当ハードルが高いことが想定されます。また、そもそも、顧客体験のようにUI・UXが大きく絡んでくるテストを想定した場合、設備投資や工数を考慮すると、自社ラボに実環境を想定したテスト環境を構築するのは困難であるかもしれません。
社内のリソース状況と照らし合わせた際に、上記手段が現実的に難しそうであれば、以下の解決手段の方がスムーズかもしれません。
解決手段2:クラウドテストソリューションを活用する
クラウド(crowd:群衆)テストソリューションという単語自体、日本ではまだ聞き馴染みがないかもしれませんが、つまりは、クラウドソーシング型の第三者検証のサービスのことを指します。
海外では手段として浸透しつつあり、2007年にアメリカで設立しクラウドテストのカテゴリを生み出したApplause社では、世界200以上の国と地域のテストコミュニティ、240万台以上のデバイスを活用して、実環境でのテストが可能です。
クラウドテストの提供だけでなく、テストに必要な様々なサービスが統合的に利用できるため、実環境でのテストを実施した際のテスト環境や条件、テストの結果の管理など様々なメリットが得られることから、今後日本でも主流になる可能性が高いかもしれません。
テスト品質を上げる観点2「顧客体験プロセスを意識したテストの重要性」
社会が便利になるにつれ、システムはより高度な要件が要求されるようになりました。
例えば、「アプリからワンクリックでタクシーを呼べ、支払いまでアプリ上で自動完結する」といったシームレスで複雑な業務フローが要求されるようになり、他にも「返品処理をワンクリックでしたい」等、顧客の期待値は高まりつつあります。
以下では、小売業界を例に挙げて具体的に見ていきます。
顧客体験の重要性の高まり
小売業界のビジネスモデルが多様化してきている現代社会において、業界各社および消費者が利用するソフトウェアの世界はますます複雑になり、競争も激しくなってきています。
特にグローバルに事業を展開する小売業者などは、より多くの消費者にリーチし、高品質な価値提供が出来るよう、ソフトウェアの品質向上に向け日々取り組んでいます。
2021年にデロイトが公表したレポート”2022 retail industry outlook”によると、小売業界ではデジタル体験と物理的な体験の両立が引き続き加速すると予測されています。また昨今の新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあり、消費者は新たな買い物の方法を積極的に取り入れるようになってきています。
デロイトのレポート” 2021 Deloitte holiday retail survey“によると、オンラインでの注文・購入・デリバリーを活用する消費者の割合は増えてきており、現在約7割の消費者が利便性を追求し、オンラインサービスを活用しています。
店舗での購入とは異なり、オンラインの注文では、
- ウェブサイトやアプリ上から欲しい物がスムーズに見つけられるか
- 問題なくオンライン決済が行えるか
- 購入した物がスケジュール通り確実に自宅に届くか
といった、一連の顧客体験における様々な要素を、小売業者はケアしていく必要があります。
様々なプロセスが連動しているがために、個々の要素を高品質な形で消費者に提供することはもちろん、一連の顧客体験プロセス全体がシームレスに機能しなければ、消費者の満足度は低下し、企業のROIにも大きなインパクトを与えかねません。
低品質のテストが引き起こす弊害
クラウドテストサービスを運営するApplause社は、以下の2021年のテストデータを元に、小売業者が提供するアプリケーションの品質についての課題を分析しました。
- 103カ国でのテストデータ
- 複数のテストカテゴリ
- 5,500台のモバイルデバイス
- 500種類のOSバージョン
- 57,000を超えるバグ、障害
小売業者が提供するアプリケーションで最も多かった問題は、機能的なバグであり、バグ全体の73.5%を占めていました。主には、クラッシュ、ワークフローエラー、ラグやレイテンシー等が該当します。
中でも特に多くみられたのは、オンラインショッピングにおけるワークフローのエラーでした。ワークフローに欠陥があると、消費者は商品の購入までたどり着けず、結果、「カート内の商品の放棄=カゴ落ち」に繋がってしまいます。
デスクトップでのオンラインショッピングにおけるカゴ落ち率は約70%、モバイルアプリでのカゴ落ち率は80%と、デバイスは違えど消費者が商品購入に至らない・至れないケースは現実世界で非常に多いです。
カゴ落ちは小売業者の収益減少に直結するだけでなく、「満足に商品が購入できなかった」という不信感から、
- 消費者の継続利用率の低下
- ブランドイメージ低下による新規顧客の減少
- 顧客獲得コストの増加
など、ROIに非常に大きなインパクトを与えてしまいます。
他にもカゴ落ちの要因となる問題として、アプリケーションのUI・UXの問題、またグローバルに展開しているアプリの場合、ローカライズの誤表記などがあります。
消費者視点で、アプリケーション上の表記が見づらい、理解しづらい、といった問題があると、商品購入までのプロセスを完了させることが困難になってしまい、カゴ落ちに繋がってしまいます。
また、仮に消費者が無事に商品を購入できたとしても、一連の顧客体験プロセスという観点では、無事に商品が自宅に配送されるどうかというところまで合わせてケアする必要があります。
小売業者は様々なチャネルを活用し、商品の配送プロセスを整備していますが、エンドツーエンドのワークフローが消費者の期待に沿うものになっているかどうかを評価し、改善すべき点は改善していく必要があります。
テスト品質を上げる観点3「(海外展開する場合)テストのローカライズの重要性」
ローカライズの最終的なゴールは、実際の利用ユーザーに対して、「この製品は自分たちに向けて作られた」というポジティブな印象を抱かせることです。
インターネットの浸透とともにグローバル化は急速に進み、自宅に居ながら違う国に住む人とコミュニケーションをとることも当たり前となりました。そしてそれは個人の繋がりだけではなくビジネスでも同じことが言えます。
とりわけ昨今におけるクラウドの普及は、海外のユーザーが日本の製品やサービスへのアクセスを活性化させ、その結果、多くの日本企業が海外市場を身近に感じられるようになってきています。
しかし、海外顧客を獲得するにあたって言語の障壁は避けて通ることは出来ません。ローンチ予定の国や地域に対応した言語への翻訳が必要です。ただし、辞書的には適切な翻訳が施されていたとしても、それがその国や地域に住む人たちにとって自然な表現となっているか 、製品が伝えたいメッセージが明確に伝わるのか、確かめる必要があります。
例えば、日本では何事もなく使われ直訳したら「小さな車」を意味する「コンパクトカー」という言葉は、スウェーデンでは全く異なった(そして、頻繁に口に出すべきではない)意味を持つスラングとして使われています。
一見何事もない言葉でも使われる地域を変えたことにより、大きく意味が変わってしまう実例は多々存在し、そのギャップがあればあるほど、ブランドイメージに与えるインパクトは当然大きくなります。
また、ローカライズというとどうしても言語的な改善を想像してしまいがちですが、他にもユーザビリティやUI観点といった点でも大きな役割を担っています。
Applause社の調査によると、 新しい製品やWebサービスを最初に触った際に、翻訳が不適当であったり、UIが不親切でユーザー志向ではない製品は、2/3の顧客がそのまま利用を辞めてしまうそうです。
顧客の継続的なロイヤリティを獲得するには適切な翻訳に加えて、ユーザー志向でのUI改善を施して、ポジティブな第一印象を顧客に与えることがポイントとなってきます。
例えば、アジアではポジティブな意味で注目を促すことの多い赤い文字は、アメリカでは警告を意味します。
ただ翻訳を施すのではなく、このようなフォントや文字色といった些細なUIについても目を向けないと、メッセージのミスリードを招いたり、ただただ“翻訳しただけ”というネガティブな印象を与えてしまいかねません。
つまり、海外向けに製品をローンチする際にはブランドイメージの保護と、実ユーザーのリテンションを保つために言語の翻訳以外にも、対象地域の慣用表現や文化的背景・価値観を念頭に入れたローカライズを実施する必要があります。
そして、その対応は実際にその地域で生活している言語・文化ともにネイティブな人材からのフィードバックを活用することで、より精度を高めることが出来ます。
まとめ
以上、3つの観点からテストの品質を上げるためのTipsを述べてきました。
- ラボテストだけではなく、実環境でテストすることが重要
- 顧客体験プロセスを意識した、ユーザー目線でのテストが重要
- 単純な言語的な論点だけにとどまらないローカライズが重要
なお、弊社では、世界200以上の国と地域のコミュニティに様々なプロファイルを持つテスターを保有するApplause社のクラウドテストサービスを提供しており、グローバル観点はもちろん、個別機能などのテストだけでなく、ワークフロー全体における顧客体験のテストまで含めて包括的に提供できるご用意があります。ぜひお気軽にお問い合わせください。